言えないから、さよなら

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……………………………………………………………… 「すっかり遅くなっちゃった。ごめんね、送ってもらっちゃって」  結局、雅哉の家で夕食までごちそうになった美鈴は、あたりがすっかり暗くなった頃に帰宅の途についた。雅哉も当然駅まで送るつもりでいたのだが、雅哉が言い出す前に母親と雅に追い出されるようにして家を出た。 「大丈夫かよ。胃、そんなに悪いのか?晩飯の時、ビールも断ってたし。晩飯もほとんど食べてなかっただろ」  確かファミレスの時も、デザートは食べたものの、食事はサラダやポテトを少し食べたくらいだった。やっぱり悩んでいるのだろうか、そう思った雅哉だったが、美鈴は首を横へふった。 「ううん、大丈夫。ごめんね、心配かけて。でも、そんなのじゃないから」  少しうつむきがちに美鈴がふっと笑うと、ひんやりと冷えた夜気に白い息が広がった。 「本当か?少し痩せただろ?」 「そう?だいぶ消えてきちゃったからそう見えるのかな」  歩きながら、美鈴が手を握ったり広げたりを繰り返すと、その手から小さな光の粒が発生し、光の粒はふわりふわりと空へのぼってゆく。 「これ…………」  真っ暗な夜空へのぼってゆく、まるで星のような粒を雅哉が見つめていると、美鈴がぽつりと言った。 「光の粒が弾けるたびに、体が見えなくなっていくの…………雅哉の家に行けるのも、たぶん、これが最後かな。服とかでごまかせたら違うんだろうけど、なんか体のまわりにある服も一緒に見えなくなっちゃうみたいなんだよね」  再びうつむき、困ったように笑いながら言う美鈴。その姿があまりに儚げで、今にもすべてが光の粒となり消えてしまいそうな気がした。  そんな美鈴を、このままほうってなんておけなかった。
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