地味という事実は、覆すことができない

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急に声が掛けたくなり角野がいるテーブルまでサっと歩いていき、丁度いい場所にあった頭にポンと手を乗せてから名前を呼んだ。 「角野」 (どうせまたな、嫌そうな顔して振り返るんだろうな) 含み笑いで待機していた俺のそんな予想を裏切り、角野は何かの会話で笑っていた笑顔のままで「はい?」と振り返り、そしてお酒が入っていたせいなのか 「なんですか小宮さん?」 目と口元を緩め、楽しそうに俺を見てくる。 (―――あれ? 角野ってこんな顔してたっけ) 突然、いつもとは違うものを見ているような感覚になった俺は、会社で毎日風景のように流し見ていたその顔を改めて見直しはじめた。 何がどう違うんだ…と顔をジロジロ見ているあいだ、角野とずっとチラチラ目を合わせていたら、突然なにかがモヤっときて、 それから角野の目の中に惹きこまれた。 そのとき心の中で、ストンと憑き物が落ちたかのように 「俺、角野が好きかも」 ふいにそう思った。 ・ ・ ・ (なんだ、この展開は。一体なんなんだ―――) なんだそれ…な今の状況に、また心の底から急激に笑いが込み上げてきてしまい、目の前に座っている角野を見ながら妙に楽しい気分で ―――俺は角野が好きなのか? 繰り返し何度も思い、声を出さずに笑っていると 「酔ってるんですか? ちょっと怖いですよ」 いつも通りの嫌そうな顔に戻った角野が不審げに見てきた。 しかし、ずっと笑ったままで自分を見ていることに気が付いたのか、 「というか、本当にかなり酔ってます?」 本気で心配そうにこちらを窺ってきた、そんな角野の頭に手を乗せて笑いかけ何かを言おうとしたとき 「大丈夫ですよー。小宮さんの面倒はみますからっ。そろそろ席に戻りませんか?」 グイっと俺らの間に割り込んできた水野が俺の腕を取り、鼻息荒く行きますよーてな感じで引っ張っていく。 ズルズルと俺を引きずるようにして歩き出した水野を見て、本当にコイツは目標に向かってまっしぐらだよな…と感心し思いついた。 (お。こりゃ、イノシシ二号だ) いやそれ全然褒めてないし…とまた笑いが込み上げ、ゆるんだ表情が元に戻らなくなる。 そのまま席まで無事たどり着くと、さっきまでとは違い変に機嫌が良くなっている俺を見て水野も笑顔でキャピキャピ喋り出し、 その後しばらくしてから忘年会は終了した。
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