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何かを考える前に一瞬にして飛びはねるようにパッと離れたあと、小宮さんは無言でササッと自分の机へと歩き出し、私は書類室に残って意味なく棚に手を伸ばす。
微妙な空気が事務所内に流れる中、社長はまだ廊下で誰かと喋り続けている。
(いつものように、いきなりドアを開けられなくてよかった……)
というか、びっくりしたせいで胸のドキドキが止まらない。
しばらくその場で立っていたが、社長がまだ戻ってきそうにない気配を感じたんで、胸の動悸が治まってきた私も自分の席へと戻って座り、
背もたれに体を預け足を大きく開いて平然と座っている、隣の小宮さんを小声で叱った。
「会社で何してくるんですか」
目だけで私を見てきた小宮さんが、悪そうに口元を緩めて笑う。
「ん? いやほら、せっかくのオフィスラブだし」
「意味が分かりません」
「しかしなんでいっつも、こう───でもまぁ今回はマシか」
小さくつぶやいた小宮さんが体ごとこちらを向き、機嫌よく私へと右手を伸ばし頬に触れると、真面目な顔で色気をたれ流してくる。
「園と旅行に行って、もっと仲───」
終わりまで言わせないよ! と言わんばかりの勢いで事務所のドアがバーンと思いっきり全開し、社長の声が事務所に響き渡った。
「ただいま!」
ドアの方へと顔を向け姿勢を正した小宮さんが、もの凄くいい笑顔で社長をお迎えする。
「お帰りなさい」
「あら」
社長はキラキラ笑顔の小宮さんのおでこを真顔で凝視し、首を不快げに傾げた。
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