第01話:鏡の世界へ「V」

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 身支度を済ませた冬真が立ち上がる。 愛染の話に対して生返事ばかりで、あまり話に身を乗り出して聞こうとはしていない様子だ。 「いやいや、良くない! 良くなかよ! 毎日、冬真のおじいちゃん来てくれとっとよ!? 冬真も今日からおじいちゃんと一緒にウチ(お風呂に入り)に来ること! オーケー?」 「……ったく」  冬真には家に帰ってからやる事があるのだ。 くだらない話に付き合っている暇はないとでも言いた気に、相槌もせずにふらっと教室出口に向かおうとする。 「ああ、逃げないで! どうせ帰り道同じなんだし一緒に帰――」  グゥゥ。なんの前触れも無く、愛染の腹の虫が鳴く。しかも案外大きな音だった。 途端に彼女は俯(うつむ)いて両手で顔を隠す。 耳まで赤く染まっていた事は触れないでやろう。と冬真は考えた。 「お腹減ったし、早く帰ろう――って、ああ! 早っ!」  彼女の反応には興味を示さず一足先にふらっと教室を出る冬真を、愛染は慌てて追いかけるのだった。
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