第01話:鏡の世界へ「V」

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「……いいからさっさと仕事に戻れ」  必死の弁明は空しく、勿論ジト目で話を聞いていた警視総監――敷宮光秋(しきみやみつあき)は冗談と感じたらしい。 手をひらひらと振って軽くあしらい、早く部屋を出て行くよう促した。 「うぁ~い。あ、そう言えば今日……でしたっけ? 冬真の入学式」 「あぁ、そうだな」  敷宮は「その事」には触れて欲しくは無かったようで声色が若干落ちた。 大事な息子の門出を直接祝ってやれない事が、心へと深く突き刺さったのだろう。 「あの冬真がもう高校デビューですかぁ。あ~あ、なんか一気に老けた気がする。お姉さんショックだなぁ。てか敷宮総監、式に行かなくても良かったんですか?」 「お前も分かる筈だが? 休みが取れないんだ。済まないとは思っているがな」  ため息にも似た声で敷宮は言う。 最早、遣る瀬無さが滲んでいた。 「行きたくても行けない、か。なんか済みません。そ、それじゃ坂本真琴(さかもとまこと)、職場に戻ります!」  冗談混じりに彼女はビシッとした敬礼を敷宮に向けて、そそくさと部屋を後にする。 自分で「地雷」を踏んだにも拘らず、虫の居所が悪くなってしまったからだ。 「あんまり危険な事に首を突っ込むなよォ! って、聞いてないな、ありゃ……」  駆け足で部屋から出て行く真琴に声をかけたつもりだったが、どうやら声は届かなかったようだ。
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