第01話:鏡の世界へ「V」

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 部屋を出た坂本真琴は、さっき許可を得た地下の閲覧室へとやって来た。 中に入ると普通ならば、綿ぼこりとカビの臭いが鼻を刺すのだが彼女は違う。 部屋に入る前に自前の(立体型の)マスクを装着していたのだ。 備えがいいのは、以前にも「ここ」に何度も足を運んだ事があるから。 「えっと、カ行、カ行……あ、あった! (かなえ)鍾乳洞集団失踪事件(未)の記録書」  インデックスを目印に真琴は事件資料を見付けると手に取り、じっくり目を通す。 「えっと、1990年8月。静岡県鼎市の鍾乳洞に学校行事で訪れていた保護者36名、子供41名、計77名の姿が消えていた事が同月2日に判明する。翌日3日、これを集団失踪事件とみて捜査本部を同市に設置して捜査を進めた。調べに依(よ)ると事件発生は先月7月29日の深夜22時から翌日の明朝2時の間と判明。しかし捜査は難航し、翌年1991年1月29日に捜査は打ち切りの判断が下された。なお本項の詳細は次頁に――であった、か」  真琴は肩を竦めた。 それは彼女が、事件の大方の予想が出来てしまったからだ。 「こりゃ迷宮入りになるのも分かるわ。完全に人間業じゃないもの。恐らくこれもヤツらの仕業ね……」  真琴は携帯電話のカメラで記録簿の写真を撮り、元の棚に戻すと閲覧室を後にした。
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