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正直なところ頭が沸騰しそうな程にクラクラしていた冬真は、大きく深呼吸をしては舌打ちを零す。
――ったく。幻覚が見えないだけ、マシか……。
煌びやかな波が打ち寄せる海岸線が眼前に広がり、さざ波の心地よい音が耳を優しく撫でる……なんて風景を期待していた自分が馬鹿みたいだなと、冬真は自嘲気味に笑う。
南国ということもあり、確かに海は綺麗である。
それこそテレビ番組のドキュメンタリーで目にするような澄んだ青をしていた。
けれども、ただのソレだけである。
混鏡世界の発生原因の手掛かりがある訳でも、ましてや救難信号を送る事の出来る道具が転がっている訳でもない。
――にしても、どうやら森への進入路を見た限りでは、俺達が出てきた獣道の一本だけみたいだな。
だったら他の奴らがこの海岸に到達しているとは考えにくい、か。
他の道が行き止まりなのか、俺達だけが外れなのか……?
とにかく、ここには特筆するようなものが無いようなので、二人は「来た道を戻る」という方針で意見が合致した。
有益な情報があるワケでも無く、ただ居るだけで消耗してしまうならば、早々にこの場を退却した方がいい。
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