第09話:真夏の孤島「H」

114/274
前へ
/1285ページ
次へ
◇ ◇ ◇  時間は少しだけ(さかのぼ)り、分岐地点にて冬真達と別れた先の中央の道――更にその奥で天音翠子とアリアンロッドは、堂々と構えるソレを前に言葉を失っていた。 大凡(おおよそ)、島の中央に位置する彼女達の眼前には開けた空間が広がり、周囲を大型シダ植物達が覆うように取り囲んでいる。 それだけならばまだしも、時代錯誤もいいトコロの遺物が鎮座しているのだから、二人の開いた口はそう簡単には塞がりそうもない。 「……、……?」 「なんで、こんなものがここにあるンです?」 あまりにも場違いである事に変わりはないのであるが、ここも《当時》は戦場であった――と考えるのが自然なのであろう。 どこからどう見ても、誰がどう見ようとも……ここは無人の孤島。 地図に載ってはいるのだろうが、マイナー過ぎて名も知らない無名の土地。 当時の技術で搬送することが出来たとしても、こんな辺鄙(へんぴ)な島にわざわざ配置する意図が掴めない。 「私も知りません。それにしても、初めて見ました……戦車」 翠子にとって初めての戦車(それ)は、見聞通りの武骨さが目立つものであり、無数の創痕(そうこん)が当時の歴史を感じさせるものであった。
/1285ページ

最初のコメントを投稿しよう!

63人が本棚に入れています
本棚に追加