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誰かがそう告げてくれる訳でも無く、終結した事を知らない兵士達は――命が尽きるまで戦っていたのだろう。
では、人と同じく戦場へと赴いた戦車は?
これも憶測の域を出る事はないが――ただただ廃棄されたのだ。
当時の回送コストを考えると、当然ながら政府に金銭的な余裕は無い。
ならば用済みになった機体一台くらい、回収せずに切り捨てた方がずっと得策なのだ。
結果として、この戦車は長い年月を誰も居ない孤島で放置され、大自然と同化しつつあるーーなどと耳障りの良い表現をしても、結局は「不要となった兵器の成れの果て」であることに変わりはなかった。
――とても、可哀想ですね……。
哀愁からか目を伏せる彼女が、そっと戦車の躯体に触れる。
「っ……!?」
ひんやりとした躯体かと考えていた翠子は、反射的に触れた手を引き戻した。
指先がじんじんと痺れるような感覚に陥っている。まるで火傷でもしたかのような、そんな痛みだ。
一体何事かと考えを巡らせている彼女の骨盤辺りから、妙な高温の反応を感じとる。
そこに入れているのは一つしかない。
彼女は自身のスカートのポケットに手を入れ、とあるものを引っ張り出した。
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