第09話:真夏の孤島「H」

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誰かがそう告げてくれる訳でも無く、終結した事を知らない兵士達は――命が尽きるまで戦っていたのだろう。 では、人と同じく戦場へと赴いた戦車(へいき)は? これも憶測の域を出る事はないが――ただただ廃棄されたのだ。 当時の回送コストを考えると、当然ながら政府に金銭的な余裕は無い。 ならば用済みになった機体一台くらい、回収せずに切り捨てた方がずっと得策なのだ。 結果として、この戦車は長い年月を誰も居ない孤島で放置され、大自然と同化しつつあるーーなどと耳障りの良い表現をしても、結局は「不要となった兵器の成れの果て」であることに変わりはなかった。  ――とても、可哀想ですね……。 哀愁からか目を伏せる彼女が、そっと戦車の躯体に触れる。 「っ……!?」 ひんやりとした躯体かと考えていた翠子は、反射的に触れた手を引き戻した。 指先がじんじんと痺れるような感覚に陥っている。まるで火傷でもしたかのような、そんな痛みだ。 一体何事かと考えを巡らせている彼女の骨盤辺りから、妙な高温の反応を感じとる。 そこに入れているのは一つしかない。 彼女は自身のスカートのポケットに手を入れ、とあるものを引っ張り出した。
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