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その瞬間、彼女は硬直する。
彼女の記憶では、取り出したモノは薄緑色をした半透明な箱であったのだが、今は正反対の状態にあったからだ。
燃える様に赤く、しかしながらプラスチックのような半透明の材質はそのままに――相も変わらず、箱の中の基盤が薄っすらと見えている。
ポケットから取り出したもの、それは幻核であった。
幻核は通常、混鏡化を人為的に引き起こす装置である――にも拘らず、彼女はそれを持っている。
翠子にどんな意図があるのかは彼女自身しか知り得ない事情ではあるのだが、とにかく彼女の幻核は通常ではありえない程に熱を帯びていた。
手に持つことが出来ない程の熱量では無いとしても、今までこんな状況には直面した事はない。
とくん……とくん……。
その上、幻核は生き物の様に脈を打っていた。
まるで小さな心臓を、剥き出しの状態で握っているような錯覚さえ覚えてくる。
本当に不思議な現象であるが故、翠子の戸惑いと不安は強まるばかりだ。
とくん……どくん……ドクン……。
おそるおそる幻核を戦車に近づけてみると、小さな脈の波は徐々に大きな鼓動へと変わる。
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