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近付ける程に幻核の鼓動は早くなり、バイクのアイドリング音のようなリズムを刻み始めた。
ドッドッドッドッ……――。
逆に遠ざければ鼓動は小さく、ゆっくりと治まっていく。
あまりにも異質な状況に陥った翠子は、気が動転してしまいそうであった。
――な、なに? 何が起こっているというの? まるで戦車と幻核が共鳴でもしているかのような……。と、とにかく、この戦車に幻核を近づけてはいけない!
そう思った彼女は、すぐさま引き返そうと踵を返す。
「あっ……」
けれども自身のスカートの裾を踏み付けてバランスを崩す翠子は、戦車目掛けて倒れ込んでしまった。
反射的に手を突こうとしようとも運動が苦手な彼女としては、やはり他人とはワンテンポ遅れてしまう。
結果として、顔面から戦車の装甲に突っ込んでしまったワケだ。
さながら“びたーん”という効果音が妙にしっくりしてしまうその様は、あまりにも痛々しい。
「ぉ、おぉ……おぉぉおぉ……」
翠子はその場で小さく蹲り、あまりの痛さに悶絶してしまう。
そして涙を目尻にいっぱい溜め込みながら、恨めしそうに戦車を見やった。
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