第二章

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 僕は里乃伽からニッパーを受け取った。右足首をまさぐり見えないアンクレットを摘まみ、ニッパーの刃で挟んだ。グリップを両手で握り切断しようと力を込める。だがニッパーはぴくりとも動かない。  顔にうっすら汗をかいて息を荒げる僕を見て里乃伽は冷静に言った。 「な。さあ、私の仕事はここからや」 『間違いなく元気が出る』というタイトルの本を開き、そこに目を落とし、言った。 「元気だしなよ」  棒読みだった。 「生きてたら苦しいこともあるよ。でも頑張ろう。頑張ったらきっと報われるから」  里乃伽は僕の顔をちらりと見てから手元の本に視線を戻した。 「頑張ろう。未来はきっと明るいと信じて」  彼女は淡々と棒読みを続ける。 「人生は希望に溢れてる。さあ希望を見つけ歩きだそう」  僕は彼女に問うた。 「大丈夫ですか」  里乃伽は不機嫌顔になり、今度は『恐ろしいほど元気が出る』というタイトルの本を開いた。 「君には両手両足が付いている。付いているだけじゃなく動くんだ。こんな幸せから気づいていこう」 「すみません。その朗読、やめてもらえますか」  里乃伽は三冊目、『引くほど元気が出る』という本を開いた。 「さぁ、立ち上がれ。やってやるんだズゴゴゴゴ、見返すんだズバババババーー――ン」  僕は席を立ち上がった。 「帰ります」 「元気出たん?」 「出ました」  里乃伽は本を片付けて嬉しそうに両手を揃えた。 「ほんま? アンクレット切ってみ」  僕はもう一度ニッパーのグリップに力を込めた。だがアンクレットは切れない。 「なんやねん、ぬか喜びさすな!」  里乃伽は僕の手からニッパーを乱暴に奪い取った。 「どんだけ元気づけたったら生きよう思うねん! 死にたがり世界選手権あったらアンタ優勝してるで! いや世界は広いで! アンタより死にたいと思ってる人間は山ほどいる! 調子に乗るな! 総はすぐ調子に乗るから嫌い! やかましい!」 「やかましいのはあなたでしょう」  僕は頭痛を覚えた。 「もういいです、外さなくて」  死ぬことになるのなら、それはそれで構わない。  里乃伽は力なく座り込んだ。 「アンタが良くても私が良くない」 「なぜです」 「魔法使いになるためには自殺志願者を助けてやらなあかん」 「だったらどうして僕が死ぬようなアンクレットをはめたんですか」
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