第二章

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 小さなポーチを開いて指でかき混ぜ、「あった」中から小石のようなものを取りだした。街灯を淡く反射して美しく輝いている。 「読心の石、ラピスラズリや。その辺で売られてるただの天然石ちゃう。マジカルストーンや」  里乃伽は僕の足元にしゃがみ込み、僕の右足を乱暴に掴んで持ち上げた。 「どわっ!」  転倒しそうになり片足で踏ん張る。 「なにをするんですか」  彼女は僕のズボンをめくり、目に見えないアンクレットを手で探り、「ここや」瑠璃色の石を押し当てた。するとその小石はアンクレット同様消えてしまった。 「アンクレットに読心の石をはめ込んだ。これで人の心が読みたいと思ったとき、その人の声が聞こえたり、心理状況や思い出が映像になって見えてくる。ただ人の心を読んだ分だけ寿命を使うことになる」 「……寿命を使う?」 「生きる希望を取り戻すために読心の力を有意義に使うんや。使いすぎて早死にしたら意味ないで。マジカルニッパーは大切なもんや。私が持ってる。今日はもう遅い。お別れや」  里乃伽は颯爽と立ち去っていった。  彼女と別れ、人通りの多い地下街をひとり歩きながら考え事をする。   彼女に聞きそびれたことがあった。なぜ僕をラブレターまがいの手紙で屋上に呼び出したのか。なぜ彼女の手足にあった傷は消えたのか。他にも分からないことは沢山ある。  ふと顔をあげると、とあるファーストフード店から林道幸汰が出てきて振り返り、店の看板を見上げていた。  なにを考えているのかと思った瞬間、『この店、値段は高いがうまいな。要チェックだぜ』と、林道の声が聞こえた。  彼との距離は十メートルほどある。その間、人が何人も行き交っている。それなのに雑踏に紛れることなくその声ははっきり聞こえた。そして彼が口を動かしたようには見えなかった。  思い切り目を閉じた。頭に浮かんだのは『97時間31分』。  腕時計を見る。本当に彼の心が読めたのかは分からないが寿命は20分ほど縮んだ。         ※  翌朝。目を強くつむると時刻が浮かんだ。 『86時間33分』  順調に寿命は減っている。 『見ろよ、財布泥棒だぜ』『よくのうのうと登校できるもんだな』『あいつ捕まらないの?』  教室に着くなり怨嗟の声が耳鳴りのように聞こえた。それが鼓膜を通して実際に聞こえたものなのか判別がつかない。着席すると自分の机から目線を動かせなくなった。
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