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ぎゅっと目を閉じた。頭に浮かんだのは84時間02分。クラスメイトや白金、種河の心の声を聞いて寿命は2時間ほど減っていた。
僕は読んでいなかった教科書を閉じた。
「白金君。もうひとつ話がある」
※
値段は高いがうまい。林道がそう評したファーストフード店に立ち寄った。
白金はテーブルに水を置いて自分の眉間を摘み重苦しい声で唸った。
「まずいよ。種河先生に目を付けられたら面倒だ。勉強しよう幸汰君」
「豚先生の野郎、ふざけやがって。俺はただ世界を平和にしたいだけなのに」
悪態をつきながら林道はハンバーガーにかぶりついた。
僕は改めて言った。
「明日の放課後らしいよ」
「幸汰君。今からすぐ勉強しよう」
「俺の宿題なんてやらなくていいって言っただろう」
白金は人差し指でメガネを押し上げた。
「分かってる。僕が悪いよ」
「そう言われると逆に俺が悪い雰囲気が出るだろう。雰囲気って時々、『ふいんき』って言っちゃうよな。まぁいいや、とにかくガールズトークを続けよう」
「ガールなんてどこにもいないだろう」
僕は白金の顔をちらりと見た。
「彼が九九を覚えるのは無理じゃないかな」
「おいおい、その彼っていうのはまさか俺のことじゃねえだろうな。俺のちりとりか?」
白金は老爺みたく微笑んだ。
「それを言うなら『早とちり』だよ。ちりとりは掃除の道具だからね」
「俺は掃除が嫌いだ。こうなったら掃除が好きな人と嫌いな人に別れてガールズトークを続けよう」
「だからどこにガールがいるんだよ」
「ここにいるよ」
「うおっ」
僕は驚いて椅子から尻を浮かせた。真横に羽倉が座っていた。いつのまにかそこにいた。
僕は思わず彼女から目を逸らす。昨日、教室で彼女の財布を手にしているところを見られた。
『よかった。じゃあ鳴原君には無理だよ。だって鳴原君、盲腸でずっと入院してたから』
彼女の言葉が、あの光景がフラッシュバックする。息が苦しくなる。
白金は羽倉に微笑んだ。
「羽倉さん。ここでなにをしてるの」
「な??んか失礼な物言い。ねえ林道君。白金君に苛められた」
羽倉は甘えた声を出して林道にしなだれかかった。が、彼は鬱陶しそうに腕を振り払った。
「なんだお前。……ペリーだっけ」
「そうそう、黒船に乗ってやってまいりました。……って、酷いな、もう」
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