第二章

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 ぎゅっと目を閉じた。頭に浮かんだのは84時間02分。クラスメイトや白金、種河の心の声を聞いて寿命は2時間ほど減っていた。  僕は読んでいなかった教科書を閉じた。 「白金君。もうひとつ話がある」         ※  値段は高いがうまい。林道がそう評したファーストフード店に立ち寄った。  白金はテーブルに水を置いて自分の眉間を摘み重苦しい声で唸った。 「まずいよ。種河先生に目を付けられたら面倒だ。勉強しよう幸汰君」 「豚先生の野郎、ふざけやがって。俺はただ世界を平和にしたいだけなのに」  悪態をつきながら林道はハンバーガーにかぶりついた。  僕は改めて言った。 「明日の放課後らしいよ」 「幸汰君。今からすぐ勉強しよう」 「俺の宿題なんてやらなくていいって言っただろう」  白金は人差し指でメガネを押し上げた。 「分かってる。僕が悪いよ」 「そう言われると逆に俺が悪い雰囲気が出るだろう。雰囲気って時々、『ふいんき』って言っちゃうよな。まぁいいや、とにかくガールズトークを続けよう」 「ガールなんてどこにもいないだろう」  僕は白金の顔をちらりと見た。 「彼が九九を覚えるのは無理じゃないかな」 「おいおい、その彼っていうのはまさか俺のことじゃねえだろうな。俺のちりとりか?」  白金は老爺みたく微笑んだ。 「それを言うなら『早とちり』だよ。ちりとりは掃除の道具だからね」 「俺は掃除が嫌いだ。こうなったら掃除が好きな人と嫌いな人に別れてガールズトークを続けよう」 「だからどこにガールがいるんだよ」 「ここにいるよ」 「うおっ」  僕は驚いて椅子から尻を浮かせた。真横に羽倉が座っていた。いつのまにかそこにいた。  僕は思わず彼女から目を逸らす。昨日、教室で彼女の財布を手にしているところを見られた。 『よかった。じゃあ鳴原君には無理だよ。だって鳴原君、盲腸でずっと入院してたから』  彼女の言葉が、あの光景がフラッシュバックする。息が苦しくなる。  白金は羽倉に微笑んだ。 「羽倉さん。ここでなにをしてるの」 「な??んか失礼な物言い。ねえ林道君。白金君に苛められた」  羽倉は甘えた声を出して林道にしなだれかかった。が、彼は鬱陶しそうに腕を振り払った。 「なんだお前。……ペリーだっけ」 「そうそう、黒船に乗ってやってまいりました。……って、酷いな、もう」
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