第二章

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 羽倉に謝ると彼女は眉尻を下げて優しい顔をした。  突然、白金は机で寝ている林道の頭を叩いた。ぎょっとした。だがどうやら寝ていることを確かめているようでその後も何度か軽く頭を突いた。そして振り返り、座布団に腰掛け言った。 「中学生の頃、僕は幸汰君から苛められてた」  羽倉は驚きを隠すようぴくりと肩を動かし視線を少しだけ白金の方にずらした。 「僕や周りの人間はそう思ってた。でも幸汰君だけは僕と遊んでいるつもりだったんだと思う。それが当時、僕には分からなかった。今と変わらず中学校でも幸汰君は有名人だった。喧嘩がやたら強くて拳で負けた事がないらしい。誰からも恐れられてた。その幸汰君の標的にされてる僕はみんなから弱者のレッテルを貼られて……。あるとき、じゃんけんで負けた人が僕の頭を叩くっていうゲームが男子の間で流行った。突然、後ろから頭を叩かれて驚く僕を見て幸汰君は腹を抱えて笑ってた。みんなが楽しく遊んでいる。きっと彼は純粋にそう思ってた。いつからか僕はクラスメイト全員から嫌がらせを受けるようになった。それでも幸汰君は惨めな僕を見て毎日のように笑ってた」  白金は淡々と言う。  彼の顔は中性的で角度によっては女子に見える。気が弱そうにも見える。白金の肩の向こう側に、冷やかしや嘲弄に耐え続ける日常が浮かんだ。 「僕は嫌いな学校で死んでやろうと思った。あらかじめ盗んでおいた鍵で屋上に忍び込もうとしたけどドアは開いていて、そこには幸汰君がいた。昼のうちに屋上で遊んで夜まで寝ていたらしい。誰もいないと思ってたから僕は涙を拭いてなかった。僕の顔を見て幸汰君は言ったんだ。 『俺がお前の問題を解決してやる』  おかしいでしょう。でもそのときの僕には彼がヒーローに見えた。君がその一因だよって言うところだけど僕はもう心が参っていてまともな思考なんて出来なかった。全部、限界だったんだ。洗いざらい、自分が辛いと思ってることを吐き出した。まともに歩けなくて幸汰君に支えてもらいながら帰宅した。幸汰君は僕の母さんと父さんに怒鳴り散らした。 『テメエらは子供の限界も分からないのか』  自分が苛めの発端を作っておいてよく言えるなとは思ったけどね。僕は母さんに付き添われて自分の部屋まで行った。そのとき机の上にあった遺書が母さんに見つかって、泣かれたんだ。あなただけを幸せにしたい。それが私の生きる意味だって。
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