第二章

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 一体彼は何を考えているのだろう。朧気にそう思ったとき、『くだらねえ』という林道の冷めたような心の声が聞こえた。  外は既に暗かったため羽倉を駅まで送ることにした。さっさと行ってこい、と言うだけで林道は羽倉を見送ろうとしなかった。  暗い空からは今にも雪が降り出しそうだった。 「わざわざ、ごめんね」  羽倉の口から白い吐息が漏れる。 「暗い夜道ですから」 「1時間って言ってたのに長居しちゃった」  その後、無言が続いた。ただ並んで歩く。夜の風は冷たくて頭の中まで冷めていく気がした。  強く目をつむる。頭に浮かんだのは73時間48分。俺の寿命は3日を切っていた。誤解されたまま死ぬのは嫌だった。 「僕は……羽倉さんの財布を盗もうとしたり……してません」  どう伝えればいいのか分からず、ストレートに言った。 「生徒会長さんが犯人なのかは知らないけど、鳴原君はそんなことしないよね」  僕は立ち止まった。彼女も立ち止まって僕を振り返った。 「どうしてそんな風に思ってくれるんですか」 「……勘。私の勘だよ。当たるんだ、私の勘」  僕は彼女の心の声を聞きたくなかった。怖かった。 「鳴原君、好きな人、いる? 前、聞きそびれたから」 「……よく分かりません」 「どうして分からないの」 「どこからが好きで、そうでないのか、よく分かりません」 「……酷いよね。林道君、私のことをペリーって呼ぶんだよ」 「いつからですか」 「ずっと前から」  羽倉はまた前を向いて歩き出した。僕はその後に続く。 「私ね、林道君のこと好きじゃないんだ」  彼女の後ろ姿は弱々しく見えた。 「色んな人から校舎裏に呼び出され過ぎて、男子に告白され過ぎて……」  彼女はおどけるよう言った。 「告白を断るのって気まずいんだよね。良いことないんだよ。それまでの人間関係だって崩れちゃうし」  羽倉は誰に対しても明るく接する。男に勘違いを植え付けてしまうのかもしれない。 「変わり者で凶暴な林道君みたいな人と付き合ってるってことになれば大勢の男子は引いてくれるかなって……。実際、効果は大きかったよ。おかげで男の子とも純粋な気持ちで仲良くすることができるようになったし」 「林道君はどう思ってるんですか」 「事情を話して、付き合ってることにして欲しいって言ったらすぐ了解してくれた」 「本当の彼氏を作ればいいじゃないですか」 「好きな人が……いないから」
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