第二章

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 彼女の心の内を知りたい。でも知ってはいけない。葛藤が鬩ぎ合い、その中でぽつりと、『嘘ばっかり』うら悲しい彼女の声が聞こえた。  羽倉は自分の両手を温めるよう息を吹きかけた。白い息が彼女の手元を漂いすぐ雲散霧消した。         ※  ホームルームが終わる。島村と入れ替わるよう種河が教室に入ってきた。林道を見つけるや否やいやらしい笑みを浮かべた。 「やぁ林道君。今ちょっと時間あるかな」 「あります」  テストの準備は万端だと言わんばかりに林道は胸を張った。 「まぁ、あれだ。疑ってる訳じゃない。だけど君が提出した宿題はどうも『出来過ぎ』ている。……のではないか、という意見があってね。単純な計算ミスもある。それはいい。だがこの問題」  種河は林道が提出したノートの一部をびしびしと叩いた。 「導出方法に誤りがあるわけだがどうも引っかかる。あえて間違えたようにすら見えてしまうんだ。まるで君が自力で解いたように見せつけるかのように、な。だが、当然これは私の勘違いだろう。それを今日、証明して欲しい」  種河は林道に1枚のテスト用紙を手渡した。 「簡単な九九の問題と単純な鶴亀算だ」  鶴亀算? 聞いてない。もともと聞いていないのだが。 「制限時間は10分。なに、小、中学生レベルの簡単な問題だ。5分もかからないだろう。ただ、こんな単純な問題すらこなせなければ」  種河は顔色を邪悪にゆがめて片方の口端をつり上げた。 「宿題を誰かにやって貰った、なんて可能性が出てきてしまう」  種河は白金を一瞥した。白金は素知らぬ顔で教科書を片付けている。 「そうなれば他の教科の宿題に対しても疑わしくなってくる。私は言いたくないな。他の教師たちに、こんなつまらないことを。テストを受けてくれるね?」 「いいっすよ。どこでやります?」  自信のある林道の返答に違和感を覚えたのだろう、種河は訝しげに片眉をあげた。 「……まぁ、テストと言っても大げさなものじゃない。少し騒がしいがここで十分だろう。適当に始めてくれ」  種河は教卓の前に座り林道を睨んだ。林道は席に着いてさっそくペンを走らせた。  僕は黒板前のゴミ箱にプリントを捨てる帰り、林道の机に目を落とした。問には2桁のかけ算が混じっている。鶴亀算に至っては連立方程式を使わなければ解けない。彼にとっては難問だろう。
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