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僕が訊ねると種河はしれっと林道の机から答案用紙を手に取り、「あぁ…………よく出来てる。……これは満点だな」そう言ってテスト用紙を机に戻し、「林道はちゃんと自分で宿題をやっていたんだな。どうも私の勘違いだったらしい」
そう呟いて、時間を取らせて悪かったと言い残し足をふらつかせながら教室を出て行った。林道の机には間違いだらけ、空欄だらけの答案用紙が取り残されていた。教室に残された僕らは互いに顔を見合わせ、各々眉間にしわを寄せた。
かなり、打ち所が悪かった。
※
白金は言う。結果、めでたしめでたし。確かにその通りかもしれないが腑に落ちない。
『奇跡は私が起こしたる』
彼女は言った。その真意は?
校舎中、里乃伽を探し回ったが見当たらなかった。すでに帰ったのかも知れない。
半ば諦めながら図書室を訪れた。背の高い本棚が立ち並ぶ。デスクでは数人の生徒が勉学に励んでいた。本棚の間を進むと奧のデスクでひとり、週刊少年雑誌を読んでいる彼女を発見した。後ろから忍び寄り、声を潜めて声をかけた。
「あの」
その細い肩が跳ねあがる。彼女はゆっくり振り返った。また顔を大きなマスクで覆っていた。里乃伽はおっさん声でぼそっと言った。
「なんやねん」
「なんやねん、じゃないでしょう。さっきのは一体……」
僕は言いよどんだ。
「……接吻のこと?」
おじさんの声で言われると複雑な気持ちになる。
「人生、なにが起こるか分からへん。楽しいやろ、生きるって」
「意味が分かりません。分からないことだらけなんです」
里乃伽は人差し指を口に当てた。
「静かにするんや。図書室やで。ちゃう、間違えた。給湯室や。……ちゃうやん、最初ので合ってるわ。図書室や」
「あなたが一番うるさいんですけど」
「とにかく静かにするんや」
確かに周囲では数人の生徒が机に向かって黙々と勉強していた。
「僕を手紙で屋上に呼び出しましたよね」
訊いてはいけないことだと思っていた。だが訊かずにはいられない。
「あのとき峯竹になにか乱暴なことをされたんですか? 手足に傷がありましたよね」
「あれは……」
『嘘言うてもしゃあないな』
僕の頭に響いたのは、また女性らしい声だった。
「傷に見えるよう口紅で細工した。演出や」
「なっ、どうしてそんなことを」
「総を学校の不良と喧嘩させるためや」
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