第二章

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 彼の声が聞こえた。見られていたらしい。僕に向かって訝しげな視線を投げ続ける。大声で呼ばれたらたまったものではない。あっちに行けと手を振るが彼は僕を見詰めたまま道の中央で立ち止まっていた。そして、その対面から峯竹が現れた。  それに気づいた林道は峰竹に目線を移す。2人は3メートルの距離をとって対峙した。 「林道。こんなところでなにしてる」 「誰だテメエ」 「喧嘩を売るな。別件があって今はお前の相手をしてられない」  林道は首をひねり、「初対面で言っていいのか悩むとこだけど、言うぜ。俺は隠し事をしたくないんだ。お前、便秘なの? いや、なんていうか直感? お前の顔を見てると便秘で悩んでるんだろうなって思って」 「……いつか必ず、俺はお前に借りを返す」  峯竹は表情を変えず淡々と言った。 「俺はお前になにか貸してたのか。何でも良いから早く返せ」  本人に自覚はないのかもしれないが林道は挑発的な発言を繰り返す。  峯竹は怒るでもなく腕を組んだ。 「この辺りで鳴原を見なかったか」  林道は失笑した。 「誰だそいつは。知らねえな」 「お前のクラスメイトじゃなかったか」 「そんな奴は知らん。有名な音楽家ならついさっき、そこの建物に入っていったけどな」  林道が指さした方を峯竹は見た。割れたガラスから覗き込んでいる僕と見事に目が合った。  反射的に隠れようとして身体のバランスを崩し尻餅をつき、持っていた角材を落とした。派手な音を立てて角材が床を転がる。急いで拾いあげ、建物の奧に逃げ込んだ。  林道に苛つきながら角材を強く握る。  いざとなったら……仕方がない。これさえあれば僕は――  ドアを蹴り開けるような轟音が建物内に響き渡る。振り返る余裕もなく階段を駆け上がった。2階は一階より暗かった。無我夢中で廊下を突っ走り適当な小部屋に入りドアを閉める。幸運にも内側から鍵がかけられた。  小部屋は巨大な冷蔵庫や使い道の分からない機材が雑然と置かれていた。正面にある大きな窓は開いていて床に溜まった埃が見える程度に部屋は明るかった。  ここから飛び降りれば逃げられるかもしれない。そう思った矢先、その窓から朝貝が軽快な身のこなしで部屋に入り込んできた。窓の外を親指でさす。 「下にハシゴがあってね」  彼は木刀を持っていた。顔に笑みを浮かべ自信満々にその木刀を振り回す。
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