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自分の寿命が見える。あと2日も生きなければならない。
そう思いながら何気なく振り返ると人混みの中に羽倉を見つけた。男女数人のグループの中で肩を揺らし笑っている。本当に楽しそうだった。存分に青春を謳歌しているようだ。
そして、強烈な距離感を覚えた。
『いっそ死ねたら、楽なのに』
はっとした。それは羽倉の声だった。
『どうして』
羽倉は友人らと笑っている。けれど彼女の表情とは相反する心の声が聞こえる。
どうして、と彼女の切実な声が玲瓏と響き渡る。
『私のことを好きになってくれる人を好きになれたらいいのに』
もう、聞きたくない。帰ろう。僕は手すりから手を離し足早にエスカレータへと向かった。
『どうして私は林道君のことが好きなんだろう』
思わず足が止まった。振り返った。羽倉は夜景を指さし友人らと笑い合っていた。
改札口前、突然後ろから腕を掴まれた。
「探したぜ」
林道だった。
「来い」
彼は強引に僕の腕を引っ張った。引きずられるように連れて行かれたのは駅ビル内のファーストフード店だった。林道はハンバーガーが並ぶディスプレイを見上げながら僕に言った。
「廉太郎。お前が金を払え」
「は?」
「聞こえないのか? 俺は腹が減ってたんだ。お前が金を払え」
「どうして」
林道は僕の胸ぐらを掴んで脅すよう言った。
「お前、弱虫だろう?」
弱虫と言われ思い至った。峯竹たちから恐喝されている僕を見て、こいつからなら簡単に金を巻き上げられると思ったのかもしれない。
「嫌だと言ったら? 僕を殴るのか? それで満足か?」
「ごちゃごちゃ言わず金を払え馬鹿野郎」
林道は僕から財布を奪い取り、中身を見た。
「貧乏人だな。残りは全部俺が使ってやるよ。金がなくても定期券があるんだから家までは帰れるだろう」
彼は僕の財布を持って数種類のハンバーガーを勝手に注文し、テーブル席に腰を下ろし僕を正面に座らせ見せつけるよう食らい付いた。
「うまいぜ。なんだ、お前も食いたいのか? お前は俺の子分だ。子分にはやらんぞ」
僕は返答する気力を失っていた。
「おらよ」
林道は僕に財布を返した。中身を見るとなぜかお札が数枚入っていた。
「なんだよ、これ」
「あ?」
「札が入ってる」
「あぁ、拾った」
札を数える。それはちょうど峰竹に盗られた金額だった。
『ぼこぼこにしてやったぜ』
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