第三章

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「その方が良いかもしれません。お互いを支えるため手を繋ぎながら滑れるかもしれないです」  羽倉は手を叩いて僕を指さした。 「頭いいね」 「彼をデートに誘いましょう」  僕がそう言うと羽倉は物怖じするよう伏し目がちに言った。 「どうやって?」  ――林道はついにハンバーガーを3つ平らげた。 「もし林道君が女子からデートに誘われたら?」 「昼飯を奢ってくれるなら行く」 「好きだと告白されたら?」 「俺も好きだと言う」 「……嘘をつくのか?」 「嘘じゃない」 「誰にでも好きだと言うのか」 「俺を好きだという奴は好きだ」 「そうじゃない。恋愛対象として好きだと言ってるんだ」 「お前が? 俺を? すまん。断る」 「こっちからお断りだ」 「馬鹿。振られたからってヤケになるな」  椅子から落ちそうなほど全身から力が抜けていく。 「……頼む。頼むから僕の話を聞いてくれ」 「聞いた。その上で決断した。断る」 「だあああああああああああああああああああっ!」  僕は頭を掻きむしった。 「いいからまず僕の話を聞け!」 「だから聞いた! 俺はお前を恋愛対象として見れない! 悪いとは思ってる! でも謝るつもりはない!」 「ふざけるなああああああああああ!」 「こっちの台詞だ!」 「こっちの台詞だ! いいか、林道君のことを好きな女子がいる!」  林道は天井を貫くような勢いで飛び上がった。 「でええええええええええっ! 俺のことを好きじゃない女子がいるのっ?」  僕は自分が気絶するような大声を出した。 「うぬぼれんなあああああああああっ!」 「やかましいいいいいいいいいいいっ!」  僕らは店員に本腰で頭を下げられ店を出た。最近、まともに店を出たことがない。         ※  体育館裏を覗き込んだ。昼間も日が届かないため何日も前に降った雪がまだ地面の隅に残っている。そこに羽倉と林道の2人が向かい合い、一言も喋らず睨み合っていた。  なんの用だ、という林道の問いに羽倉は答えられずにいた。1秒が長く感じられる。羽倉は目を閉じ、意を決したよう林道を正面から見詰め、言った。 「りっ、……りりっ……りりりっ」  林道は片眉をひそめた。 「目覚まし時計の練習してんの? 下手くそだな。出直してこい」  突っ慳貪な態度にめげず羽倉は言った。 「り……林道君。あっ、あああ……あ……」  林道は怪訝な顔をした。 「あ? あ……あ……悪魔」
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