幸せの涙

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長年に渡り続いた戦争は、人間側の勝利で決着がつく。 それでも、戦争が世界にもたらした爪痕は大きく、立ち直るのに何十年も必要とした。 そんな歴史から、AIのように、人が自然の摂理を無視した、人工生物を作り出す事を、世界は禁止した。 法律を作り、刑罰を作り、あらゆる手段を講じて、その行為を禁忌と定め、この世の中から葬ろうとした。 そんな世界に逆らうようにして、親父はヒューマノイドの研究に没頭し、そしてとうとう、禁忌とされている行為に手を出した。 ヒューマノイドを作り出したのだ。 分厚いガラスケースの中で、何本ものコードに繋がれ、培養液の中で眠るヒューマノイド。 そんな『彼女』を初めて見たのは、俺が五歳の頃だ。 初めて見た俺に、親父は何度もしつこく、『誰にも決して言ってはいけない』と繰り返し、言い聞かせた。 『誰かに言えば、お前も父さんも、殺されてしまう』 そんな脅しを言われ続け、俺は、誰にも言わないと、決して口外しないと誓った。 培養液の中の彼女は、とても綺麗だった。 目を閉じたまま、眠るように動かない彼女に、俺はいつも語り掛けた。 親父に会えない時は、彼女だけが話し相手だった。
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