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赤い月
……ねぇ、人体自然発火、て聞いたことある?
最近、殺人事件が流行ってるんだって……
先月もひとり、被害者が出たらしい。
噂好きのクラスメイト達が話しているのを横目に、わたしはカバンに宿題に使う教科書とノートを詰める。
部活を終えて帰る頃には、外は暗い。
学校から近いから、わたしは徒歩通学。
本屋に寄りたくて、薄暗い横道に入った。
「お嬢ちゃん、あっちで、おじさんと一緒に食事でもしない?」
人通りなんて、あるわけがない。
暗闇の中で、街灯がところどころを白々しく照らす道で、見知らぬその男は気持ちの悪い笑顔をしていた。
「いえ、夕飯なら母が待っていますから。」
男の指差す方向に、レストランや喫茶店のような店なんて、無いと知っている。
わたしは一歩、後ずさった。
「いいじゃないか……なぁ?」
男の目にてらてらとぬめるような、気持ちの悪い光が宿っている。
男の手元の何かが、冷たく街灯の光を反射している。
「殺されたくなかったら、着いてこいよ。」
これが、ドスの聞いた声というものか。
わたしはどこか他人事のように、そう思っていた。
「だから……やめてください。」
そんな物騒なもの、わたしに向けないで。
細い路地の隙間からは、まんまるの大きな月が見えた。
今夜は、十六日。
「おじさん。人体自然発火って、知ってる?」
「あ?」
十五夜の時よりも大きく見える月が赤い。
オオキクテ、マンマルデ、モエルヨウニ、アカイ。
おじさんの身体が火を噴いた。
面白い位、汚い悲鳴をあげたそれは、眩しい位に明るく辺りを照らしだす。
後に残ったのは、燃え残った手首と、ほんの少しの灰だけ。
「……こら。また、やったの?」
どこか甘い響き声が後ろからして、わたしは振り返った。
「もっと早く助けに来てくれなきゃ。」
わたしはその人に、甘えたくて抱きつく。
月が出ている時にしか会えない、この悪魔がわたしは大好きだ。
悪魔は優しくわたしを抱きしめてから、本屋まで一緒に付き合ってくれた。
月の赤い夜、人が燃える。
月の青い夜、人が凍る。
悪魔に魅せられた少女達は、不思議な力を手に入れる。
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