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***〈葉月潤.side〉
「神楽拓美はーーー死んだよ」
その言葉に俺は、ぽかんとなった。
何年か前に、顔を合わせた事があるその少年を、俺は忘れてはいなかった。その少年と、今、再び顔を合わせている。
突然その少年が高2の春に、同じクラスに転校生としてやって来たからだ。
そしてまるで必然のように、その少年は俺の席の隣になった。
俺は少年の顔を覚えていたが、その少年は俺を覚えてはいなかった。
だから廊下で2人っきりになった時、俺の名前を言ってみた。だが少年は、俺の名前さえ覚えてはいなかった。
「…死んだって、は?神楽拓美は、お前だろう?」
俺は困惑気味に引きつった顔で笑いながら、目の前の少年を見つめる。
するとその少年ーーー神楽拓美は、なぜか冷たく笑い返してきた。
その笑みに、ゾッとする。
「葉月潤ーーー…だっけ。ごめんね、オレは君を覚えていない」
「…いや、別に、それはいいっつの」
だって、こいつと顔を合わせたのは中1の夏休みの頃だ。
こいつは元々、都会の人間だ。都会から夏休み期間中にこの四国の田舎に遊びに来ていただけで……たしか、俺にそう言ってたはず。
つーかこいつ、その頃と比べるとだいぶ性格が変わったような……いや、性格くらい変わるか。
「だからね、君を知っている神楽拓美は死んだんだよ」
そいつはまたそう言って、にっこりと笑う。
俺は冷静にその言葉の意味を考えてみて…
……うん、わからん。
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