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ほかのスタッフにもサポートなどはさせているが、基本はツバサが仕事をこなす。
情報端末とロシア軍の電子機器をコードでつなぎ、データをノアに送る。
『簡単な解読ですむ感じだね。……うん、解析終了』
「で、なにがわかった」
『大体はジョージさんが言っていたのと一緒。魔法が使える。ロシア在住の女の子。あとは、詳しいプロフィールだけかな』
「そうか」
あまり有力なのが無くて、少しがっかりした。
『この子の名前は、美恋・イヴァーノヴナ・ヴォルコフ。ロシア人男性と日本人女性のハーフだね。魔法の使用は三回。その度に引越しをしていたらしいよ。ちょっとしたいじめみたいなのが原因みたいね』
「ミレン……」
俺は、情報端末に転送される文章を見ながら、つぶやいた。
引越しをしていたというなら、この少女にとって親しい人は家族ぐらいだろう。
家族を亡くした悲しみから、そして監禁されている恐怖から、救い出さないとな。
俺は悪を狩る猟犬(HOUND)であらねばらない。
だから、その少女を傷つける悪の喉笛を噛み千切らなければいけない。
「解析、助かった。任務に戻る」
『どういたしまして。頑張ってね、狡くん』
部下ではなく、幼馴染としてのツバサのエールを受け取って、無線をきる。
あのリバティイーターものと思われる足跡が残っていたのでそれを追っていくことにした。
うまくいけば、奴らの下にたどり着けるかも知れない。
あたし、美恋・イヴァーノヴナ・ヴォルコフは、薄暗い鉄格子の中で目が覚めた。
無理矢理連れてこられた時の暴力などのあざや打撲が、起き上がろうとする度に痛む。
「う……」
冷たいコンクリート造りの古い牢屋だった。
毛布とトイレはあるもののそのほかにはなにもない。
この部屋の外が、研究室のような手術室のような不思議な部屋に続いているので、最低限の暖房はきいているので、凍え死ぬことはなさそうね。
痛みと寒さで、眠気が醒めて、記憶がよみがえってくる。
もう、一日泣いたので涙はあふれなかったけど、悲しい気持ちや恐怖は、まだ心に居座っている……。
もし、もしも……郵便かなにかだと思って家の扉をあけなければ、お父さんやお母さんは、死なないですんだんじゃないかな……?
そんな意味もないifを何度も、何度も考えてしまう。
お母さんと、お母さんをかばったお父さんは、二人一緒に銃で撃ち抜かれた。
あの時の、返り血は今もあたしの服に染みをつけていた。
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