第1章

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研究員は、オレのほうに視線を見けるだけで、気にせずに歩いてた。 通り過ぎたその背中に、オレは蹴りを食らわせる。 「へぶっ」 と声を出して敵は転がっていった。 きちんと気絶してくれたらしい。 オレは近くの空き部屋に研究員を引きずって、スナイパーライフルを投げ捨てて、その白衣を奪って羽織る。 こいつは、まるでゾンビのようだった。 生者を襲うことはなかったが、その動きは鈍く変にとろかったのだ。 そして、からだの節々が変に固まったかのような動作をする。 だから、オレは人間をきちんと把握せずに動く人形のような状態なのだろうと、判断したのだ。 予想通りの結果に、この研究員のような敵と、それを管理する人物がいることが推測できた。 催眠術の一種か、薬物投与による洗脳か……とにかく、好都合だ。 オレは、その姿で廊下にでて、美恋を探しはじめた。 あれから、何時間経ったのか。 聞こえるのは、ドサドサと言う雪が屋根から落ちる音と、誰かの話し声だけだ。 すると、研究者風の男達三人がこの部屋に入ってきた。 なにをするつもりなの? そう疑問に思い見ていると、男たちは、道具を仕度し始める。 もう一人少しぎこちない動きの研究者が入ってきた。 後ろから、鎖で繋がれた女性がついてきた。 あたしと同じようにここに監禁されているのかもしれない。 円状の手術台にその女性が磔に拘束されていた。 「う……ひぃ」 女性が恐怖で声を漏らします。 すると、研究者の一人がシャーレから何かの破片をピンセットでつまみだした。 そして、それを女性の胸の真ん中のあたりに落とした。 次の瞬間、女性の体が痙攣を始めまる。 浜辺に打ち上げられた魚のように、拘束具を気にせずに体はねている。 「ァ…ギィギ……グギュイ……ッ!」 不気味な、搾り出すような音が聞こえてくる。 あの人の体に、何をしたの!? 「適合率0%から上昇しません。失敗です」 研究者がなにかの機械をみながらとくに何も感じていないような声音で読み上げる。 次の瞬間、女性が破裂した。 血管が浮き上がり、血液がしぶきをあげて、あたりに撒き散らされる。 ビチャと言う音をたてて、研究者や部屋を赤くした。 それでもあの研究者たちは、無感情でいうのだ。 「結果を上層部に送信。次の被験者を用意し、直ちに行え」 「了解」 そして、あたしのいる牢屋の鍵が開けられた。 次の被験者とは、あたしのことだった。
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