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……―――2020年8月24日、怪物化現象(リバティイーター)と言う単語が世の中に広まるきっかけとなり、それを消滅させる組織が世の中に知れ渡ることとなった集中型怪物化テロ事件が起きた日。
その時を、俺は思い出す。
『降下実施地点に接近中……』
『降下、10分前』
無線機越しにサポートチームの会話を聞く。
「もう、時間か……」
最年長で隊長の狐火燈治が、紫煙を吐きながら、つぶやいた。
火気厳禁であるこの場所、特殊作戦用ヘリの貨物室でタバコを吸うことは本来ありえないが、彼の立場のせいで、サポートチームの人たちが注意できずに、そのまま飛行していたのだ。
「隊長、そろそろ消したらどうですか?」
俺は、隊長にそう言った。
この人の部隊に配属されている俺は、隊長の人柄を知っているので、物怖じせずに言うことができた。
「それもそうだな」
そう言うと、隊長は、貨物室の床にタバコの先端をこすりつけて、火を消す。
あとで、掃除するのが大変そうだ。
「さて、準備できてるか?」
隊長は、姿勢を正す。
俺を含む戦闘員5名が、隊長を見て頷いた。
戦闘員、組織であるのにもかかわらず、全員の服装はバラバラだった。
私服である人もいれば、一応軍服のようなこの組織の制服に身を包んでいる真面目な人もいる。
俺は、上は私服の灰色で模様のあるパーカーで、ズボンは制服の一つである寒冷地迷彩の軍服だ。
いずれも、これから高度一万メートルから降下する人間の服装ではないはずだ。
誰一人として、降下のためのパラシュートやマスクなどはつけていない。
それがなくても、俺達は問題ないからだ。
「総員、スタンバイ」
隊長の指示にしたがって、貨物室の両サイドに付けられている扉の前に並ぶ。
窓から見える都会の街は、火の手が上がり、建物が倒壊し、そしてもう人の気配はなかった。
生き物はたった一種類だけ。
怪物だ。
半年前から確認されている怪物化現象……電子機器を媒体に、人間の身体、脳、精神などに干渉し、人体を怪物の姿になるように変えるウィルスを送り込む、科学的魔法技術の応用である。
症状として、発熱し、体に痣が現れたり、変色し始めると、最終的に怪物に変化する。
その怪物……テロリストたちの犯行声明曰く、リバティイーターを殲滅するのが任務だった。
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