第1章

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そんな数の少ない事件でも、大きな被害をもたらすのがリバティイーターなのだ。 俺は、雪が降り積もる天井の無い建物の廃墟で肘から先が機械の義手となった右手でタバコを吸う。 成人となり、小説で言うタバコを吸うことで得られる生きる実感というものを少し、わかるようになった。 毎日のようには吸わないが、任務が終わった後は、あの人を真似て吸うようにしていた。 今回の任務は、リバティイーターを利用している犯罪者を逮捕すること……だったが、リバティイーターを制御しきれず、感染し、怪物化していたので、排除し終えたところだった。 『任務、お疲れ様。ボス』 幼馴染であり、部下である雛鳥ツバサが、無線越しに言ってきた。 オペレータールームで、一息ついてる頃だろう。 その少女の姿を思い出しながら、言葉を返す。 「ああ、お疲れ」 あの人が死んでから、組織は、俺に任された。 あの事件の生き残りで、一番長くマジックプログラムを扱ってきて、実力もそこそこあれば、そう言う立場にもなれた。 まあ、実質的な運営は、副司令官がやっている。 『ノアを直ぐ近くに降ろしたから、そこまで来てね』 「わかった」 俺は頷き、無線を着ると情報端末リードを起動する。 スマートフォンサイズのそれは、昔の無線機などを模した形をしている。 その液晶画面に赤い点でノア……軍用輸送機の位置が記されていた。 俺は立ち上がり、歩き出す。 ノアの中は、生活ができるように改修されてた。ヘリ、トラック、バイクなどの乗り物を積んでもおつりがくるほどの広い貨物室がある。 その奥の部屋にオペレーションルームがあり、二階部分にあたる場所に、キッチンと仮眠室など生活のために必要なシステム、そして操縦席があった。 「お帰り、ボス」 出迎えてくれたツバサに俺は手の動きだけで返事して、近くのソファに腰をかける。 「このあたりはその分厚いコート着てても寒かったでしょ?」 そう言って、湯気のあがるコーヒーの入ったカップを差し出してくる。 気がきくいい女の子だ、そう何時も思う。 肩にかからないぐらいの長さの黒髪ショートカット。17歳にしては、少し若く見られる可愛い童顔に垂れ目の大きな瞳、すらっとした形のいい体。 こんな風に気がきいて、優しく、芯の通った女の子だった。 「あ、またタバコ吸ってたでしょ?体によくないから、あんまり吸っちゃダメなんだからね」「なるべく、吸わないようにしている」
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