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柳田はイライラしていた。今月末で仕事を切られる。大学を卒業してから3年、社会というのは想像以上に冷徹だ。柳田は、プレデターという派遣会社から五霞町にある食品会社、黒崎フーズに派遣されていた。柳田がいるのは野菜処理の部署。キュウリを包丁で乱切りし、洗浄機で洗う。 派遣のチーフ、大高に平手で頭を叩かれた。
「何、チンタラやってんだ!早く洗えよ!」
ゴリラみたいな顔をした中年だ。イチイチ、叩くなよ!殺すぞ!「洗剤どんだけ入れてんだよ?」
「三杯ですけど」
「二杯入れるって教えたよな?」
「でも、吉良さんが」吉良というのは工場長だ。「うるせー、俺の指示に従えねぇのか!?」
「いや、そういうつもりじゃ……」
「てめぇは、言われたとおりにやりゃあいいんだよ!」夕方になり清掃の時間になった。ホースでキュウリのカスを流し、でっかいタワシを洗剤の入ったバケツで洗う。明日でこのイライラともお別れだ。明日から派遣社員は何をやっても許される特例な存在となる。「派遣社員の犯罪を合法化して、平和ボケの日本の目を覚ます」1ヶ月前、織田首相は国民に向けて言った。いい時代だなぁ。
カニカマの加工場はものスゴい熱気だ。卵白と粉末を混ぜ、スケトオダラの冷凍した擂り身を粉砕機で砕く。ガガガ、という音が響く。ある程度砕けたら粉末液を投入する。藤堂は去年の10月に入社した。 最初は生臭さに耐えられずに吐いたりした。今年で24歳だが、派遣だから恋愛も出来ない。社会や企業から虫けらみたいな扱いを受け、糞みたいな20代だがそんな日々も今日で終わりだ。
「おい、早く食紅入れろよ。君、この仕事向いていない」上司の知久が冷たい口調で言った。
藤堂は食紅を白く混ざった原料の中に入れた。血のような赤い渦がグルグルと回りだす。
警視庁外事三課の浪花刑事は南栗橋駅にやってきた。こじんまりとした駅だ。やたら外国人が多い。浪花は国際テロリスト、レッドベールを張っていた。レッドベールのメンバー、ロドリゲスが先週、幸手駅で目撃されたのだ。
急激に腹が痛くなってきた。トイレに入り、個室のドアを開けた。ウグッ、吐き気を催した。死体が転がっていた。背中にナイフが突き刺さっている。金髪で、右の耳にドクロのピアスをしている。浪花は身元を調べるためにジャンパーをまさぐった。スマートホンが出てきた。プロフィールを調べた。【須藤康裕】さらに調べると
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