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「レコーディングスタート」
緊急車両のサイレンが響き渡る裏で、
彼、“しぎな”はひとり声を発した。
左右のほほにあるチークボタンを、ハンドガンを持たぬほうの手を持ち上げて、親指先と中指先で触れながらつぶやいた。
高いビルの屋上の端っかどに立って、向かいにあるさらに高いビルの上階を見上げる。
初夏の夜風がさらりと黒髪をなぶった。
「19時43分、配置に着いた。
状況を送れ」
男らしい声で彼が呼び掛けたのは、この場にいる誰かではない。
彼の鋭い眼の奥に像を映す、“インナーディスプレイ”に浮かび上がる赤毛の女性。
交信相手の“仲里”課長に向けての呼び掛けだった。
『犯人グループは推定7人、リーダーは“板東まさぎ”と思われる。
現在、実弾小銃を持って、セクエンスコーポレーションのビル18階、幹部を含む4人の社員を人質に立てこもってるわ』
『たった4人?
みんな帰ったあとなのか、大企業の本社ビルにしちゃあ少なくねえか?』
空中に浮かぶ女性のウィンドウを押しのけて割り込んできたのは、ブロンドの男性の顔だった。
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