・第1話〔1〕

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      「レコーディングスタート」      緊急車両のサイレンが響き渡る裏で、 彼、“しぎな”はひとり声を発した。   左右のほほにあるチークボタンを、ハンドガンを持たぬほうの手を持ち上げて、親指先と中指先で触れながらつぶやいた。   高いビルの屋上の端っかどに立って、向かいにあるさらに高いビルの上階を見上げる。   初夏の夜風がさらりと黒髪をなぶった。     「19時43分、配置に着いた。 状況を送れ」      男らしい声で彼が呼び掛けたのは、この場にいる誰かではない。   彼の鋭い眼の奥に像を映す、“インナーディスプレイ”に浮かび上がる赤毛の女性。   交信相手の“仲里”課長に向けての呼び掛けだった。     『犯人グループは推定7人、リーダーは“板東まさぎ”と思われる。 現在、実弾小銃を持って、セクエンスコーポレーションのビル18階、幹部を含む4人の社員を人質に立てこもってるわ』     『たった4人? みんな帰ったあとなのか、大企業の本社ビルにしちゃあ少なくねえか?』      空中に浮かぶ女性のウィンドウを押しのけて割り込んできたのは、ブロンドの男性の顔だった。  
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