・第1話〔3〕

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       捜査に乗り出した警安特課だったが、成果はなかなか上がらなかった。   まずもって、板東まさぎは国民名簿上存在しない名前であることが判明した。   犯人グループとのやり取りは全てUAR通信で行われていたということだったが、どうやら一人一人に違ったアバターで交信していたらしく、証言がバラバラで人相も定まらない。   テロリストたちとはウェブを介して知り合ったのだが、追跡を避ける能力や人心掌握術にも長けていたようだ。   はっきりしたのは、それが偽名にしろ、少女が演じていたにしろ、板東まさぎという男が存在し、彼がテロリストのリーダーだったのは確実、ということだけだった。    少女のほうも似たようなもので、ただしこちらは名前さえも判明しない。   そもそもグレーパーカーで中高生、紫色の瞳をしている女という情報だけでは人探しにも限界があった。   相当数を動員して聞き込みに当たったが、まともな手掛かりの一つも得られなかった。    そんな調子で時間だけが過ぎてゆき、課員たちの胸にも苛立ちが広がり始めていた。   捜査が進展したのは、4日後の昼過ぎのことだった。          
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