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ふと、視界の左下に“communication error”の赤い文字が明滅しているのが見えた。
通信障害なんて、珍しいこともあるものだと、しぎなは思った。
だが、部屋の隅から妙な視線を感じて、そちらへ顔をねじ向ける。
壁際の暗がりに、何かの塊が置かれてあった。
しぎなはそれが、掛け布団か洗濯物かと思ったのだが、どうやらそうではなかった。
「はっ……!!」
見ていると、その塊はゆっくり立ち上がり、てっぺんに光る2つの眼をこちらに向けてきた。
フードをかぶったグレーパーカーの女の子。
「お前は……!」
渦中の人物が、何の前触れもなくいきなりそこへ現れたのだ。
しぎなは声を発し、中腰になって身構えた。
とはいえ、これが現実のことではなく、UAR通信でインナーディスプレイ上に描画された姿なのだろうことは、すぐに気付いた。
実物大の交信相手を表示する、アクチュアル通信だと。
「いやしかし、どうやってこの回線に……」
“入り込んだのか”、問い掛けようとして、やめた。
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