・第1話〔4〕

6/19
前へ
/673ページ
次へ
   ふと、視界の左下に“communication error”の赤い文字が明滅しているのが見えた。   通信障害なんて、珍しいこともあるものだと、しぎなは思った。    だが、部屋の隅から妙な視線を感じて、そちらへ顔をねじ向ける。   壁際の暗がりに、何かの塊が置かれてあった。   しぎなはそれが、掛け布団か洗濯物かと思ったのだが、どうやらそうではなかった。     「はっ……!!」      見ていると、その塊はゆっくり立ち上がり、てっぺんに光る2つの眼をこちらに向けてきた。   フードをかぶったグレーパーカーの女の子。     「お前は……!」      渦中の人物が、何の前触れもなくいきなりそこへ現れたのだ。   しぎなは声を発し、中腰になって身構えた。   とはいえ、これが現実のことではなく、UAR通信でインナーディスプレイ上に描画された姿なのだろうことは、すぐに気付いた。   実物大の交信相手を表示する、アクチュアル通信だと。     「いやしかし、どうやってこの回線に……」      “入り込んだのか”、問い掛けようとして、やめた。  
/673ページ

最初のコメントを投稿しよう!

139人が本棚に入れています
本棚に追加