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「それにしても室長は本気で火星への有人探査に挑戦しようっていうことかしら。他国に秘密裏でやるなんて可能なのかしらね」
「なんか新しい技術があるとか言ってたよ。俺もまだ詳しくは聞いていないんだけど」
その時突然に会議室のドアが勢いよく開けられた。ノックもなしに扉を開けて入ってくる人物、最先端技術室の室長である剛力源蔵だ。
「あ、室長、お待ちしておりました」
二人は立ち上がり、剛力室長に軽く頭を下げた。
「ああ、いいよいいよ。座って座って。待たせて悪かったね。いろいろ準備があったものだから」
そう言いながら剛力室長は二人の前に移動して、ノートパソコンを会議室のテーブルの上に置く。
「さっそくだけど、これを見てもらっていいかな?」
剛力室長は二人の前に置かれたノートパソコンを起動し、一枚の画像を空中に3Dのホログラムとして表示した。
立体的に映しだされた映像を見て最初に口を開いたのは飛田だった。
「これはどこかの工場ですか。何かの工作機械のようですね」
そして小林がそれに続く。
「ありふれた下町の工場のように見えるのですが」
画像を見た二人は特段変わった反応を見せなかった。
「そうだよね、何も見えないよね。でも人がいるんだよ、ここに」
剛力室長はホログラムの中央付近を指差す。そこにはただ床があるだけで、人影らしき存在はない。
「そしてここには製作中のロケットの部品がある」
剛力室長は机を指差す。机の上には数枚の書類が散らばっているだけだ。
画像の中に何も見つけられないまま飛田はホログラムに指をかけ、上下左右に回す。3Dのホログラムがくるくる回るが、何の痕跡も発見できない。
「もしかして光学迷彩ですか? 私達に見えていないだけ?」
横から口を出した小林が飛田が操作するホログラムから目を離し、剛力室長の方へと顔を向けた。
「光学迷彩とはちょっと違うんだよ。物体表面の光を細工しているわけじゃない。これはね、光粒子を透過させているんだよ。人や物の外側を薄い膜で覆っているんだ。そして当たった光粒子に高エネルギーを付加して物体の素粒子間を強制的に通過させているんだ」
「それって完全な透明化じゃないですか!」
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