2章

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 会議室での話から出発までは早かった。すでに火星への出発はお膳立てされており、2月2日にロケットは発射された。  第2宇宙管制室。12日間の航行を終え、純日本製のロケット焔(ほむら)3号は火星まで1500kmの位置にいる。 「こちら管制室。焔3号、聞こえるか? ロケット本体の透過処理を開始せよ」 「こちら焔3号、聞こえる。核融合炉よりエネルギーを供給。透過処理に成功した」  透明化装置が作動し、焔3号の姿が掻き消えた。すべての光粒子が焔3号を貫通していくため、光学的にロケットを補足することはできなくなった。 「焔3号、大気圏に突入した。着陸準備に入れ」 「こちら焔3号。ただいまより着陸準備に入る」 「焔3号、落下速度が上がりすぎだ。反重力素子を展開せよ」 「反重力素子を散布。速度低下」 「着陸脚を展開。地表面まで20m……3m……2m……1m。着陸成功」  砂塵が舞い上がり焔3号が持つ6脚の着陸脚が、荒涼とした火星の砂漠に足跡だけを残した。砂と岩の世界に6つの穴がぽっかりと開く。無機物だけの世界に6つの穴だけが突如出現するのは異様な光景だった。 「いよいよだな。人類初の火星への一歩だ」 「先輩、抜け駆けなしですよ」 「わかった、いくぞ」 「「せーのっ」」  ぼすっ、という音だけを残し、姿を消した二人の存在が小さな二つの足跡を同時に作り出した。  2051年2月14日日本時間午前9時、日本人として初めて二人は火星に足を踏み入れた。 「やりましたね、先輩。ついに私たちは火星に降り立ちました。すごい、すごいです。火星ですよ。火星!」 「浮かれている暇はないぞ。時間は15分しかない。15分で可能な限り調査を行おう」 「わかりました。急ぎましょう」
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