バスを追いかけて

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バスを追いかけて

 ああ、またこの夢だ。  たまに見る、夢と判っている夢。  俺はバスに乗りたくて停留所に向かっていた。だが、タイミングが悪く、一足遅れでバスは発車してしまうのだ。  目的地は判らない。ただ、次は待てない。どうしてもこのバスに乗らなければならないという気持ちが湧いて、俺はバスを追いかけた。  信号や道の混雑具合のせいでバスはなかなか進まない。これなら次の停留所で追いつける。  そう思うのに、またバスはタッチの差で発車した。  このギリギリの追いかけっこをしばらく続けている間に目が覚める…こういう夢だ。  正直、見たくはない夢だ。起きると妙に悔しいし、何だか体も疲れている気がする。それでもどうすることもできず、たまにこの夢を見続けた。  そんなある日。  用事で遠出をした際、目的地に向かうため、バスを利用することになった。  駅前の停留所に向かうが、一足遅く、バスは今発車したばかりだった。  夢と同じだ。  そう思った瞬間、俺は反射的にバスを追いかけていた。  夢の中では追いつけないが、現実ならばどうにかなるのではないか。もし追いつき、バスに乗ることができれば、あの夢を見ることはもうなくなるのではないか。  そんなことを考えながらパスを追いかける。でも、夢と同じで追いつくことができない。  信号に引っかかることや道の混雑具合、次の停留所寸前で逃げられるところまで夢とそっくりだ。  …もういい。  夢でも結局追いつけなかった。だから現実でも追いつけないのだろう。だったらもういい。  そこまで急いでいる訳じゃないんだ。次を待つとしよう。
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