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「最悪だ…この世の終わりだ…」
元から汚れた部屋をさらにひっくり返しながら男は呟いた。
男の部屋の窓、外から二つの影がこそこそと覗いている。
形は人間だが全身が銀の塊のように金属的な色に輝いている。
「隊長、あの地球人は何を騒いでいるのでしょうか?」
「これだ」
隊長と呼ばれた者が、小さな手帳のようなものを取り出し、自慢気に見せた。
「ヨキンツーチョーというもので、やつらの通貨のようなものだ。これが無ければ衣食住に困るというわけだ」
首を傾げ少し考えながら「なるほど」と応えた。
「こうして徐々に地球人の間に不安を広げるのだ」
確信めいた表情の隊長、対象的にやや疑問を感じている部下だった。
隊長とその部下は、あちらこちらで小さな問題を起こしては小さな小さな不安を煽っていった。
道端で、主婦らしき女性が二人、噂話に花を咲かせている。
内容はというと「昨日も泥棒があった」だの「治安が悪くなった」だの「よそ者が増えた所為だ」だのというものだ。
その主婦のすぐ近く、塀の裏側に、彼らはいた。
「順調に不安は広がっているようだ」
二人の行動は町に不安を広げ、彼らが活動していなくても自ら犯罪を行う地球人が増えていった。
白を基調とした継ぎ目のない内装。
その窓から青い星、地球が見える。
腰に手を当て地球を注視する隊長。
白い空間に切れ目が開き、部下がやってきた。
手には黒いアンテナのついた機械。雑音と共に何かの情報番組が聞こえている。
「どうだ。地球人の、あの国の様子は」
「はい、法を犯す者が増えたこと、モラル低下の危機意識、法を守る組織の無能さへの嘆きなどが広まっているようです」
静かに頷く隊長。
「順調そのものだ。この不安は止まらない」
「隊長、このようなことで我々の任務は全うできるのでしょうか?」
「できるとも」
二人は監視を続ける。
ひとつの国の中で高まった不安は隣国まで波及しようとしていた。
隣国の工作員潜入? 国際的なテロ活動の兆し? 黒幕は大国の大富豪?
など、憶測が憶測を呼び、留まることはなかったからだ。
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