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檻があった。
白系の家具で揃えられた部屋の片隅、あれはタンスの上だ。
その檻は明るいオレンジ色の格子の中に、牧草が床が見えないほど敷き詰められていた。
もうすぐ新年となる時期。寒い季節はまだ続くが、それでも心温まる季節だろう。
しかし何故、何故彼女はこうまで檻の中を見ているのだろう。
丸一日、特に休日はずっと中を見続けていた。
中には何もいないのに。
彼女には見えていたのだ。中にいた1匹のハムスターがもぞもぞと動き、時折車輪を回す愛らしい姿を。
毎日様子を見ては今日も元気であるということを確認し、それから仕事へ向かう。
飼っていたハムスターの名前は、グラタン。
白い毛に覆われた姿は彼女の好物であるグラタンのようだとグラタンを頬張りながら思っていたそうだ。
名づけるにはやや安直だが、愛着の沸く名前だった。だがそれはもういない。
にもかかわらず、毎日のように檻の中を覗き込んではにこにこと笑っているらしい。
母は毎日父に対しどうにかしようと持ちかけるも、ろくな返事は返っては来ない。
だが、問題は自分よりも遥かに母にあるのだと、真奈美は思う。
それは、このハムスターを殺したのは母なのだから。
だが今の真奈美に恨みはない。何故なら今は元気だから。
グラタンは今もなお、いや昔以上に自分に懐いてくれている。出掛ける時でさえ、手の中で大人しくしているのだから。
だからいつか母も分かってくれるだろう。
ハムスターは、踏みつけられたくらいでは死なないのだ。
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