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すると母は震えた声で言う。辛うじて聞こえるのは「違う」「虫が」という言葉。
母は混乱していた。
それ以来、真奈美が少しおかしくなってしまった。
真奈美はその死体を何の躊躇いなく手に取った。
母は小さな声で言った真奈美の言葉に驚いた。「帰ってきたんだ」という不気味な言葉で、真奈美は夜も更けてきた頃に、押し入れをごそごそと漁る音を聞いた。予想は出来ていた。
音が止んだころ、母はそっと中を覗いてみると、中には何もない。何事もなく真奈美は椅子に座り、まだ勉学に勤しんでいたという。
気づかぬ内にもう夜は明ける。頭の中をぐるぐる回る。あの死体は夢だったのだろうか。
実は叩いたのは虫で、真奈美はただ眠かっただけ、いやそもそも虫すら殺していない。ただの夢だったのかもしれないなど様々空想が頭を打ち消しては浮かべを繰り返す。お陰であれ以来眠ることすら出来ず、もう外は明るくなり始めていた。
そろそろ朝食を作らなければならないだろう。真奈美もそろそろ起きて来るだろう。母は朝食を作るのを止め、息を殺しそっと耳を澄ませる。
聞こえる。母の耳に辛うじて届いた。
「おはよう、グラタン」
やはり生きていたのだ。それ以外考えようがない。だがどうにも収まらない心臓は声の音量を自然と抑えさせた。
「真奈美、朝ごはん」
返事はなく、そっと部屋の戸は開いた。
真奈美は何も言わずに席に着けば食事を頬張った。そこにいつものような会話など何もなかった。
だが真奈美は学校には行かず、そのまま部屋に籠ってしまった。母はそれを注意し登校するように促したが、真奈美は部屋から出てこようとはせず、それきり母と真奈美は口を利かなくなった。
それから数週間と部屋から出ようとはしなくなった。それでも母は毎日真奈美の部屋のすぐ前に食事を置いて待ち構える。手だけで真奈美はそれを受け取ると、またすぐに籠ってしまう。
聞こえて来るのはあの死んだはずのハムスターを愛でる声。それは昔の真奈美のままだったが、母の目に映る真奈美の手はどんどん痩せていっていた。
だがある日、母は気づいた。真奈美は週に一度家を空ける日があるらしい。
母が偶然忘れ物を取りに家に帰ってくると、娘がビニール袋を持って家に入っていく姿を目にしたそうだ。
だから試したのはその日から一週間。母は仕事を休み、張り込みをしてみた。
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