第1章

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 不思議と欺くために一度仕事に行く道を歩くと、視線を感じるものだ。きっと母が仕事に出かけたことを確かめたのだろう。その数分後、塀の視覚から玄関を見張れば真奈美は外へ出てきた。引きこもり生活が長いせいか髪の毛はまるで、昆布のようである。  後を追えば、そこはあのハムスターを買ったペットショップ。  真奈美をそこでじっと牧草を眺めていた。  あれは小まめに交換しなければならないらしく、日ごろから欠かさなかったものだ。それを真奈美は1回分の牧草を購入する。 「ああ」という情けない声は、あの金銭の出所だった。  少し足りないと思っていたのだ。  真奈美はたったの数百円ではあるが、あの牧草と少しの餌の為にいちいち母の貯金を盗んでいたのである。  きちんと管理しておけばもっと早く分かったはずだった。  別に構わなかった。あの真奈美は楽しそうなのだから。だがなぜ買うのだろうという疑問は残る。  何に使うだろう。いや牧草については百歩くらい譲れるが、あの餌は誰が食べるのか。それだけが母には疑問であった。  もう一度。もう一度だけ母は一週間後に待ち構えた。次は後をつけるではなく、真奈美のようにいなくなったところを見計らい、母はこっそりと真奈美の部屋に入った。ああいう時期の人間はやけに敏感であるために、部屋の物を動かさないように細心の注意を払った。  そして探す。それは視界に入れば、母の顔は一気に冷める。  想像を遥かに凌いだからだ。頭の中では、あの状態のまま、きっと骨になっているだろうと踏んでいたが、現実は違う。綺麗なのだ。あまりに白く、丸い。だが生気がなく目がまるでガラスのようだ。いや、あれはガラスだ。  母は腹を決めた。その檻の鍵を開ければ、そのハムスターを指の先で小突いた。瞬間にその指をひっこめる。あまりに気持ちが悪い。  凸凹とした感触が人差し指から身体全身に鳥肌として乗り移った。  考えた。この身体の中にある物。そしてその正体は檻のすぐ横に置いてあった。  母は想像した。女手一つで育ててきた愛娘が、飼っていたハムスターの口の中にヒマワリの種を詰め込んでいる様子を。最悪である。  故に心に決めたことがある。 なんとそのハムスターを鷲掴みにするのだ。  真奈美はもうすぐ帰ってくる。だからその前に、真奈美に見つからないように。母は庭にそれを埋めた。深く深く。
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