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その後真奈美はすぐに帰ってきた。
母は真奈美が帰ってくるのをまた同じく塀の死角から見つめ、玄関を潜るのを見届けた。するとまた数分としない間に、真奈美の部屋から大きな音が聞こえ始めた。
外にいても耳の鼓膜を小刻みに震わせる強い音はきっと真奈美の声だ。
「いや、いや」真奈美は鳴く。
聞こえる震え、高い声でそれは次第に掠れ始める。それでも真奈美は鳴くのを止めない。母は良いのか。何もしないのか。いや出来ないのだ。真奈美の状態が分からない以上、母はどうすることも出来なかった。静まって、また落ち着いてくれるのを待つしかない。
母は泣く。塀の前ですすり泣く姿を道行く車が見ようともその場で泣き崩れた。
すると、部屋の中でまた大きな音がするのだ。それはさっきまでの音とは格が違い、強く大きな物が倒れる音。そして鳴き声は止んだ。
それもしんとした静寂が訪れたのだ。
真奈美の変異、いや危険を感じた母は急いで中に入った。
戸を勢いく開ければ、また牧草の強い臭いが部屋に充満している。そんな中、真奈美の部屋の本棚が真奈美を下敷きにしている事に気付く。
呼びかけても呼びかけても真奈美は気を失っているが、息はしている。
母はその瞬間感じた。自分はおかしくなってしまったのだろうかと。なぜか安堵しているからである。
母は心のどこかに大人しくなってくれた事に安堵の表情があることに気付き、気付いた瞬間に表に出てきてしまったらしい。
そして気づく。
「病院」
娘を病院に連れていける。
怪我もそうだが、精神科に見てもらおう。
母はそう思った。そう思えた矢先、母はすぐに電話をかけ、救急車を呼んだ。
医師によれば命に別状はないらしく、夕方にも目を覚ますだろうと言ってくれた。だが聞きたいのはそこではなく、母は医師に相談を持ち掛けた。
「娘は、死んだハムスターを部屋に連れ込んで可愛がっているんです」
医師は聞き返した。
「ですから、ハムスターが死んでしまった事を悲しんで、死体を部屋に連れ込んで、飼育しているんです」
少し細かく説明してみた。
医師は顎を撫で、事故の原因と共にその話を聞いた。
すると医師は「それは逆効果でしょう」と言うではないか。
続けて「もっと早く相談してくだされば」などと名残惜しそうに言う。医師は真奈美とも面識がある。いや生まれた時から知っている。故他人事ではないのだろう。
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