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母は謝ることしかしない。医師も責めるつもりではなく、これ以上刺激しないように軽く忠告だけ促したのは、母もだいぶ参っているように見えたからだ。
医師は続けて母に問う。
「その死体は、どうなってるんです」
震えた声で母はありのままを話すと、医師はまた深く息を吐いた。
「お母さん。私にも正直分かりません。ですがもういないのなら、ゆっくりで構いません。諭すのです。ゆっくりと」
医師は母の手を握りゆっくりと諭す。きっと諭し方を教えてくれているのだと母は思い、それに癒された。母の表情がほんのり明るくなることを察すると返事を待たず続けた。
「恐らくですが、悲しんでいるのはハムスターが亡くなったことよりも、目の前で殺されたことでしょう。なのでゆっくり、何年かかけてゆっくり教えるのです。こちらで数日間入院させて、私のほうでも話をしましょう。生き物は必ず亡くなります。今回は普通のペットロスよりショックが大きかっただけです。たとえハムスターでもね。良いですかお母さん。たかがハムスターと思ってはいけません。同じ命なんですからね」
母は深々とお辞儀をすれば、そのまま病院を後にした。あの人なら大丈夫。娘を任せよう。そう思ったからである。
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