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数日後、真奈美は帰ってきた。食事もろくに取っていないようで、痩せているのは変わらなかったが籠りっきりだった頃と違い、髪を切っていた。久しく見る自宅に少しばかり安心しているようで、母の顔をじっと見つめた。「お帰り」「お腹空いてない」と聞いても真奈美は何も言わず、母の脇をすり抜け自室へと籠った。
変わらないのかと、小さく溜息をついたが、これから数年かけて真奈美を立て直すと決めたのだ。あの医師もきっと協力してくれるだろう。
だがその医師を頼る日はそこ何時間としない内に訪れる。
真奈美があの痩せた姿からは想像も出来ないほど大きな声を上げたのだそれも、「お母さん」と。
医師に見せて良かった。可愛い娘がまた久しぶりに自身を母として呼んでくれたのだから、母はゆっくり返事をした。
リビングに行けば、真奈美は手に何かを包んでいた。
「どうしたの」と聞けば「見て」と言う。
「何を」と聞けばそれを開いて見せた。
そこには何もいない。
真奈美は昔のように笑っていた。
「良かった。最近元気なかったから」と安堵の表情を絶えず母に見せ続けた。
返事は出来ない。何もない手の上の空中を可愛がる娘に対し、何も言えなくなってしまった。
真奈美が母の脇を右往左往と視線を流し、キッチン周りを眺めれば「安心したらお腹空いちゃった。何かないの」と探しながら真奈美は昨日の残りであろう食事をリビングで平らげた。
だが結果として、娘は学校にも登校するようになった。何年も時間は無慈悲に流れ、無事とは言えないまま中学に上がり、高校に上がった。
勿論それでも症状は治らない。真奈美には見えているのだ。普通の人には見えないハムスターの姿が。
娘は次第に外に出かけるにも、そのハムスターを手に持ち出かけるようになった。世間は不気味に思うだろう。それは母も同じである。
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