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真奈美は満足だった。グラタンが帰ってきて、もうじき高校も卒業する。
母は口を利かなくなった。
真奈美が怖かったのだが、真奈美はそれを気にしない。
高校を卒業すれば働きに出て、家を出るのだと思っていたからだ。グラタンと一緒に。
冬の真っただ中、卒業に向け、進路を決めていた頃、朝起きれば母は一人で食卓を囲み、何か独り言を言っていた。
「お父さん。あの子、このまま一人家を出していいのかしら」
真奈美は不思議に思う。
何より不思議なのは、食事が3人分用意されていたこと。真奈美は久しぶりに母の前に座った。
「あら真奈美、お父さんの膝に座って、子供みたい」母は真奈美を見て笑った。
「お父さんも、変な気を起こさないでよ。可愛いからって。あらあら」
母は何か言っている。そこには何もいないのに。
だから「なにを言っているの」と聞いてみた。声は若干震えている。
すると冷たい声で母は「学校行ってきなさい」と言う。先ほどの笑顔が嘘のような冷たい声だ。
「グラタン、行こう」
真奈美は手のひらを見てそう言った。その言葉で母はさらに一気に冷たくなり溜息をついた。玄関で靴を履いていれば「お父さん、私もう限界よ」という声が響いた。
「何のことよ」
しらばっくれている訳では決してなく、真奈美は玄関口に置いたグラタンをそっと救い上げ外に出た。
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