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「今ならまだ、帰れるよ?」
もう足腰の立たなくなったオレは木にもたれかかるようにして倒れてる。
乱れた服を直しながら、悟流はふいに尋ねた。
顔だけを動かして悟流を見上げたオレに、珍しく困ったような顔で、笑ってんだかどうだかわかんない顔で。
「…戻ったら、もう二度と離してあげないよ」
それでもいいの?って。
そんなこと言われたって、良いも何も、選択肢なんてない。
だってこんな身体で家に帰ったって、どうせまたすぐ我慢出来なくなってさっきみたいに男を欲しがるんだから。
普通の生活に戻れんならそりゃ戻りたい。
けど誰よりも一番自分がわかってる、もう…戻れない。
「また四人のモノになるんだよ。それでもいいの?」
ねぇ?って、オレの服もキレイに直しながら悟流はオレの顔を覗き込んで、再び尋ねる。
なんで、今日に限ってそんな優しいこと言うの。
いつも見せかけだけ優しい鬼畜のくせして、オレの人権なんか全部無視してたくせして。
なんで今日に限ってほんとの優しさ見せるの。
「ッ…、ふっ…ぅ、ぅう…ッ」
そんなだから別に泣きたくもないのに、涙が出てくるんだよ。
哀しくなんてないのに、次から次へと溢れ出して、止まんない、止め方なんてわかんない…
「…やっぱりナナちゃん、泣き顔が一番可愛いね」
そんなオレの頭をポンポンと撫で、悟流はそう言ってまた微笑んで、オレの目元に口付けた。
冷たいくせに柔らかくて優しいその弾力に、嗚咽が止まんなくなった。
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