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『ねぇ、さっきっから音すげーんだけど。廊下まで響いてるよ?』
「は?知らねぇし、コイツに言えよんなの」
半身を扉の内側に入れた男が、チラリとオレを見遣った。
もうほとんど意識のないオレの視界はぼやけて、うっすらとしか判別出来ない。
けど恐らくあれは、黄色の男だ。声と話し方でわかる。
もしかして目が合った?かと思えばフイと視線を逸らされる。
「…総司くんさ、明日ワタシなんだから加減してもらえます?傷まみれとかイヤなんですけど」
黄色の男はハァと溜め息を吐き、特に興味もないような声音でそう言った。
「ははっ…わかってるよ、加減してるって。とーぜんだろ?」
(、嘘つけよ…っこいつ、おかしぃんじゃね…)
"ソウジ"と呼ばれた男はオレの後頭部を掴んで顔を上げさせ、「ほら、してるデショ?」って片口を上げ笑ってみせる。
そんな男を見て、黄色の男はまた溜め息を吐いた。
「…どーでもいいけどさ、壊して悟流くんにバレてもフォロー出来ないですからね」
「…わかってるよ、そこまでバカじゃねーし」
「ならいーんですけど」
そう言って、黄色の男は小さく肩を竦め、扉の向こうへと消えてった。
それを見送った後、男はまた舌を打ち、頭を掴んでた手を乱暴に離した。
「アイツ、なんでも見透かしたみてぇな眼しやがって」
小さく呟き、男は苛ついた様子で親指の爪を噛んだ。
そしてオレへと向き直り「見てんなよ」ってまた頬を殴った。
「っ…」
衝撃に目の前がチカチカと光る。
鼻や口から流れ出た血液が口の中に入って鉄の味しかしない。
「あーあ、萎えちまったわ。もういーよお前、出てってくれる?」
言いながら、男はまた髪を掴みオレを引き摺って。
扉の外、そのままの状態で放り出される。
まるでゴミでも捨てるかのようになんの躊躇いもなく。
「またな」、最後にそう言い捨て、すぐさま扉を閉めた。
「──っ…ふ、ぅ…っぅう、くそ、っふざけ、な…っ
「、ぅうッ…ぅ、ふ…っく、ぅう…!!」
濡れそぼった身体、冷え切った体温。
青いアザに、赤い血液。
止まらない涙、止まない嗚咽。
悔しくて、情けなくて、痛くて、怖くて、絶望しかなくて。
その場でオレは、声を殺して泣くことしか出来なかった。
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