Red × Room

5/5
前へ
/268ページ
次へ
『ねぇ、さっきっから音すげーんだけど。廊下まで響いてるよ?』 「は?知らねぇし、コイツに言えよんなの」 半身を扉の内側に入れた男が、チラリとオレを見遣った。 もうほとんど意識のないオレの視界はぼやけて、うっすらとしか判別出来ない。 けど恐らくあれは、黄色の男だ。声と話し方でわかる。 もしかして目が合った?かと思えばフイと視線を逸らされる。 「…総司くんさ、明日ワタシなんだから加減してもらえます?傷まみれとかイヤなんですけど」 黄色の男はハァと溜め息を吐き、特に興味もないような声音でそう言った。 「ははっ…わかってるよ、加減してるって。とーぜんだろ?」 (、嘘つけよ…っこいつ、おかしぃんじゃね…) "ソウジ"と呼ばれた男はオレの後頭部を掴んで顔を上げさせ、「ほら、してるデショ?」って片口を上げ笑ってみせる。 そんな男を見て、黄色の男はまた溜め息を吐いた。 「…どーでもいいけどさ、壊して悟流くんにバレてもフォロー出来ないですからね」 「…わかってるよ、そこまでバカじゃねーし」 「ならいーんですけど」 そう言って、黄色の男は小さく肩を竦め、扉の向こうへと消えてった。 それを見送った後、男はまた舌を打ち、頭を掴んでた手を乱暴に離した。 「アイツ、なんでも見透かしたみてぇな眼しやがって」 小さく呟き、男は苛ついた様子で親指の爪を噛んだ。 そしてオレへと向き直り「見てんなよ」ってまた頬を殴った。 「っ…」 衝撃に目の前がチカチカと光る。 鼻や口から流れ出た血液が口の中に入って鉄の味しかしない。 「あーあ、萎えちまったわ。もういーよお前、出てってくれる?」 言いながら、男はまた髪を掴みオレを引き摺って。 扉の外、そのままの状態で放り出される。 まるでゴミでも捨てるかのようになんの躊躇いもなく。 「またな」、最後にそう言い捨て、すぐさま扉を閉めた。 「──っ…ふ、ぅ…っぅう、くそ、っふざけ、な…っ 「、ぅうッ…ぅ、ふ…っく、ぅう…!!」 濡れそぼった身体、冷え切った体温。 青いアザに、赤い血液。 止まらない涙、止まない嗚咽。 悔しくて、情けなくて、痛くて、怖くて、絶望しかなくて。 その場でオレは、声を殺して泣くことしか出来なかった。
/268ページ

最初のコメントを投稿しよう!

410人が本棚に入れています
本棚に追加