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「ちょっと、起きなよ」
「、ん…
ペチペチと、頬に当たる感覚。
声に目を開ければ、アキの顔が視界に入る。
「そろそろ行きなよ、悟流くんとこ」
じゃないと俺が文句言われちまうんだから、ってアキはオレの腕を引いて立たせた。
「今…何時…もう朝…?」
こないだから思ってはいたが、この建物には窓がない。
だから今が夜なのか朝なのか、あれから何日経ったのかすら判別出来ないんだ。
ついでに時計も、日付けや時刻を知らせてくれるものは何一つ、ない。
「…言っとくけど、ココにはないよ、何日とか何時とか」
「…は?」
「だからさ、例えばワタシが今日は満足したからもう終わりだって思えば、それで終わりなわけ」
「なにそれ、どうゆう…」
「逆に全然満足しねぇなって思えば終わんないの」
「まぁさすがに上限はあるけどね」って付け足した。
アキの言ってる意味がよくわかんなくて、疑問の浮かんだ顔を向ければ、アキはハァと息を吐いて頭を掻いた。
「ぇ…じゃあオレ、いつここに来たの…」
「…さぁ、はっきりとはわかんないけどさ、たぶん昨日くらいじゃない?」
なに、それ。なんなの。意味わかんないよ、そんなの。
「…ま、そのうち慣れるよ。とりあえず早く行きな、ここ出て二つ右の部屋だから」
じゃあね、ってアキは手を振り、オレに向けてた視線をゲームへと戻し、それきり話そうとはしなかった。
・
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扉の前、立ち尽くす。
心臓の音がうるさい。喉元にあるんじゃないかってくらいドンドンと激しく脈打って痛いくらい。
いつの間にかまた手錠は付けられてて、震える手で遠慮がちにノックした扉。
微かにしかならない音。それでも届いたらしく、中からは「入っていいよ」って声。
恐る恐る開いた扉。正面に飛び込んできた男。
以前見た時と同じように豪勢な椅子に腰掛け、脚を組んでる。
みんなと同じように黒いシャツと細身の黒いパンツに包まれた身体は、"リョウ"や"ソウジ"よりは幾分か華奢なように見える。
一面深い青で塗られた壁に、ベッドと椅子。
男は涼しげな瞳をオレに向け、うっすらと微笑んでる。
真っ黒な前髪を横に流し、そこから覗く額が爽やかさを増長させているようだ。
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