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『ちょお自分さぁー、もう逃げんのやめてやー?こっちも疲れんねんからさぁ』
"トキ"と呼ばれたオレの前に立つ男は、言いながらしゃがみ込み、オレの顎を持ちクイと上げた。
目が合ったソイツは片口を上げ、ニヤリと笑う。
少し垂れた目尻に目元のホクロが相まって一見して優しい印象。
なのに凶暴性を感じるその笑みに、ただ震えるしか出来なかった。
『つーか、ほっそ!ほんま女みたいやん。これやったらまぁわからんでもないわ』
背後から来た別の男はそう言ってオレの腕を掴み、立たせるべくグイと引っ張った。
簡単に持ち上げられる身体、抵抗する気力も体力も、オレにはもう何も残されてない。
『え、まじで?コイちゃんってそっちの趣味あった?』
『は!?ないわあほ!』
『もぉえーからはよ連れてこや、もう眠いねん』
『おー…せやな』
何人くらいがいるんだろう、色んなとこから声がしてわかんない。
それにお腹が痛くて、息も出来なくて、もう意識が朦朧とする。
あーあ…こんなとこでオレの人生終わっちゃうんだな、なんて。
悔しいような、悲しいような、なんて言えば良いんだろう。
(でももう…疲れた、かも…)
ここで終わんならそれはそれでオレの運命ってことなのかな。
あぁでも、そうだ…
(せめて最期に、家族の顔だけでも…見たかった、な…)
『あ、おい!重いんやからちゃんと起きとけや!おいて!』
グルグルと色んなこと考えてた頭は緞帳が下りるみたいにゆっくりと暗くなってって。
ペチペチと頬に感じる痛みも徐々に遠のいてく。
男たちの声も、同じように遠のいて、エコーがかかってまるでスローモーションで、もう何を言ってるのかさえ聞き取れない。
そしてそのまま、オレの全ては下りた緞帳の中、ゆっくりと暗闇に取り込まれてった…
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