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 タツオは無駄な質問をしてしまった。 「無敵になるのはどんな気分だい?」 「最高で、最低だ」  クニが混ぜ返した。 「なんだよ、それ」 「誰でも一瞬で握り殺せるのは、軍人だからまあうれしいさ。だけど、そんな力をチート技で身に着けたなんてのは最低の気分だ」  そういうとテルは左手でこつこつと軍用義手をたたいた。鈍い金属音がする。 「馬鹿力はあるが、こいつは今暑いのか寒いのかもわからない鈍感な代物だ」  うつむいたままテルがつぶやいた。 「おれはいつか結婚するだろうと思ってる。うちの親父やおふくろのようにな。だけど、この腕で自分の奥さんや子どもをどうやって抱くんだろう。おれは間違って赤ん坊を握り潰したりしないよな。そんなことを考えると、夜も眠れなくなる」  今度は誰ひとり口を開かなかった。沈んだ空気は歓迎懇親会の時間になるまで、4人から離れなかった。
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