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これで最後、と言われたドビュッシーのタクトが下されたと同時に、颯太(そうた)は首を捻った。 「はい、じゃあ今日はここまでにしましょう。」 その言葉を皮切りに、一斉にみんなの話し声で賑やかになった。 「崎谷 (さきや) くん、どうかしたかい?」 こちらの様子に気づいた指揮者の木村さんが声を掛けてくれる。 50代半ばの、ふっくらとお腹の出た人の良いおじさんといった風貌が、このアマオケに入団したばかりの颯太の心を和ませる。 「少し、バイオリンの音に違和感があると言うか……。ノイズが入るような気がします。」 f字孔から中を覗きつつ、気になる事を伝える。 「ノイズ?」 どれ、と木村さんもバイオリンを受け取ってf字孔を覗き込む。
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