きみがすき

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それは、いつもの通り授業が終わってから真っ直ぐに有坂さんの家に行ったある日のこと。 「こんにち……」 おざなりに鈴を鳴らして、ガチャリと遠慮なくドアを開けると、珍しくスマホを左耳に当て電話中の有坂さんと目が合った。 少し気まずそうな視線をすぐに逸らし、ボソボソと会話続けながらそっと俺に背を向けた。 「……だからそれはいいって……。」 どうやら仕事の電話と言うわけではなさそうで、プライベートな物なら聞いてしまうのも躊躇われる。 背負っていたバイオリンケースを下ろして、工房を出ようとしたタイミングで「じゃあ、切るから。」と通話が終わった。 「「すみません。」」 お互いの声が重なって、あ、と目を見合わせる。 「電話中なのに入って来ちゃって、すみません。」 有坂さんが謝るより前にと頭を下げて、少しだけ気まずそうな顔を見つめた。 「いえ!こちらこそすみません。……珍しく父から電話が来たので……。」 「お父さんですか?」 付き合い始めて2ヶ月。 有坂さんの家族の話を初めて聞いた。 「お父さんて、何されている方なんですか?そういえば一度も聞いたことなかったですけど……。」 お祖父さんとお祖母さんの話なら少し聞いたことがあるが、思い返してみても両親の話は聞いた事がない。
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